AI予算を稟議に出す前に、3か月やることがある

予算を先に取った会社ほど、そのAIは使われない。
9月の下旬になると、下期と来期のAI予算の相談が増える。だいたい「いくら積めばいいですか」から始まる。その順番だと高くつきます、と毎回答えている。
帝国データバンクが2026年3月に全国1万312社から回答を得た調査では、生成AIを業務で使っている企業は34.5%、そのうち86.7%が「業務への効果が出ている」と答えた。効果ありは使っている側の自己申告なので、そのまま鵜呑みにはできない。それでも、始めた会社の多くが何かしら得ている、くらいは言っていい。なのに毎年この時期、予算が付くまで始めないと決めた会社から相談が来る。
稟議が通った日に発生する約束
予算を取るには、稟議に効果を書く。年間◯時間の削減、外注費の◯%圧縮。数字になっていない稟議は落ちるので、書く側も慣れたものだ。
ただ、書く時点では誰も何も分かっていない。どの業務がAIに向いているのか。現場が触るとどこで詰まるのか。分かる前に数字を約束する。
通ってしまうと、今度はその約束を守る側に回る。半年後の中間報告で削減時間を出さないといけないから、最初に書いた業務が合わないと分かっても乗り換えられない。合わない業務に当てはめたまま、報告用の数字を作る仕事が増えていく。
契約している席数と、毎日開いている人数が一桁違う会社を見たことがある。余っている席は、稟議に書いた導入規模だった。誰も悪気はない。規模を書かないと金額が出ないから書いただけだ。
「小さくPoCで通す」が中小企業で詰まるところ
こう書くと、だから小さくPoCで試してから本予算を取るんだ、と返ってくる。検索しても、稟議を通すコツとして同じ手順が出てくる。方向は合っている。
ただ、社員が数十人の会社だと、PoCの段階で既に稟議が要る。PoC用の予算も予算だからだ。そして小さく取った予算にも、小さい約束を書かされる。3か月で効果を検証すると書けば、3か月後に担当者が検証結果を出すことになる。
その検証結果を書くのに使う時間が、AIで浮いた時間を食う。伴走先で何度も見た。報告のために動くAI、みたいな状態になる。
大企業のPoCは、専任の担当者が付く前提で組まれている。中小企業には付かない。同じ手順を持ち込むと、検証作業のぶんだけ現場が重くなる。
週2時間という予算の単位
伴走先で続いている会社は、順序が逆だった。
最初に決めたのは、担当者が週に何時間そのAIを触るかだ。だいたい週2時間。業務は1つだけ。ツールは月額のプランで、決裁が要らない額に収める。
狙いは、約束を発生させないことにある。決裁が要らないなら効果を先に書かずに済むし、書かずに済むなら3か月のあいだに業務を乗り換えられる。最初に選んだ業務が合わなくて、2か月目に別の業務へ移した会社がいくつかある。予算が付いていたら、その乗り換えはできなかった。
計画書には金額の欄がある。担当者が週に何時間触るかの欄は無い。ここがいちばん効いていると思っている。金額は決裁で管理されるが、人の時間は誰も管理しない。だから、ツール代も研修費もデータ整備費も積んだ立派な計画書ほど、使う人の時間が空いていないまま走り出す。
3か月経ってから稟議に出すもの
先月この業務に何時間かかっていて、いま何時間になったか。誰がやったか。どこで詰まって、そこは人が見る運用にしたこと。全部が実績で、約束が1つも入っていない。
この稟議は通る。通ったあとも歪まない。実績の延長として金額が付くだけなので、誰も報告用の数字を作らずに済む。
来期の予算会議が10月なら、今週始めれば1月には実績が出る。それまでは、予算の行を「AI関連・来期に再検討」で空けておけばいい。金額を先に決めないことのほうが、この時期は効きます。
AIに金を付けるのは、使うと決めた人が現れてからでいい。順番が逆になると、その人が現れる前に、誰かが効果を約束させられる。
補助金で入れたAIが翌年に止まる話も、根は同じだった。そちらは補助金でAIを入れた会社が、翌年に止まる理由に書いている。申請書の運用欄を業者に埋めてもらうか、自分たちで埋めるかの違いだ。
参考:帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査(2026年3月)」(2026年5月14日公表。全国2万3,349社を対象、有効回答1万312社)






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