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AIで初稿は増えたのに、なぜマネージャーだけが忙しくなるのか

  • 1 日前
  • 読了時間: 6分

AIを入れた現場で、いま静かに起きていること。作る人の手は空いて、それをレビューする人だけが忙しくなる。


@yutaiitaka さんが、まさにこの話をXに書いていた。AIを導入したのに、なぜかマネージャーだけが疲弊していく、と。読んで、他人事に思えなかった。自分たちも一度、同じことをやりかけたからだ。


先に結論を言う。ボトルネックは初稿からレビューに移る。そして、それを抜けるには「良し悪しの基準」を人の頭からファイルに移すしかない。自分たちはその基準を4つのファイルに書き出して運用している。順に話す。



レビューだけが詰まる仕組み

AIを使うと初稿は本当に速く出る。記事も、提案資料も、メールの下書きも、形にするまでの時間は短くなる。


問題はその後だ。作った人の手は空いているのに、それを見るレビュアーだけが、だんだん忙しくなる。


AIの初稿は速いが、そのまま使えるとは限らない。事実が少しずれている。言い回しがいかにもAIっぽい。それっぽいけど中身が薄い。文脈は合っているのに、自社の言い方になっていない。この細かい違和感を一つずつ直す仕事が、まるごとレビューする人に回ってくる。


作る人は「AIで効率化できた」と感じている。なのにマネージャーはむしろ前より忙しい。生産性を上げたつもりが、特定の一人にしわ寄せがいく。ここまでは、@yutaiitaka さんの観察とまったく同じことが、自分たちの現場でも起きた。


原因は「最後に誰が仕上げるか」の空白

なぜこうなるのか。一番大きいのは、「AIが出したものは、最後は誰かがいい感じに直してくれる」という空気が、なんとなく残ることだと思う。


人が最初から最後まで書いていた頃は、書いた本人が質に責任を持つのが自然だった。あいだにAIが入ると、その感覚が崩れる。作った人は「AIが作ったものだから、大きくは外していないはず」と思う。マネージャーは「現場側である程度見ているはず」と思って受け取る。お互いが少しずつ相手をあてにして、最後に質を見切る人が曖昧になる。


ここまでは元のポストと同じ見立てだ。ただ、自分はもう一段やっかいな壁があると思っている。


仮に「質は作った本人が持つ」と決めたとする。それでも、作った人が自分の初稿を直せるとは限らない。良し悪しの基準が、たいてい一人の頭の中にしかないからだ。


「ここは事実確認が必要」「この表現は強すぎる」「この言い方だと自社っぽくない」。こういう判断は、意外なほど言葉になっていない。だから「これAIっぽいから直して」と言っても、どこがなぜAIっぽいのかを、渡す側も説明できない。これは文章に限らない。チラシでもポスターでも、制作物なら同じことが起きる。


基準が言葉になっていなければ、「マネージャーは基準を渡す側にまわればいい」という解決策も、そこで止まる。渡すべき基準が、そもそも取り出せないからだ。


基準を、人の頭からファイルに移す

自分たちの解決策はシンプルだ。良し悪しの基準を、人の頭から取り出してファイルに書き出す。そして、その基準をAIに読ませる。


ここで使ったのが、Claude(Anthropicが出しているAI)の「スキル」という仕組みだ。前提知識として説明しておく。スキルとは、AIに毎回読ませる作業マニュアルのようなものだと思ってほしい。「こういうときは、こう書く・こう判断する」という手順や基準をファイルに書いておくと、AIは関連する作業のたびにそれを読み込んで従う。基準が人の記憶ではなく、ファイルの中に置かれる。ここが肝心なところだ。


作る効果は2つある。1つは、AIの初稿そのものが基準に沿って出てくること。もう1つは、作った人が、その基準に照らして自分の初稿を見られること。マネージャーの頭の中にあった観点が、作る人の手元にも来る。


「でも、基準を全部言語化するなんて無理では」と思うかもしれない。最初から全部そろえる必要はない。むしろ逆で、最初は空でいい。レビューで粗が見つかったとき、その場で直して終わりにせず、「どの表現がなぜ違和感なのか」を一言だけ書き足す。「内容が薄い」と感じたら、どんな具体例が足りなかったのかを残す。指摘が出るたびにファイルへ戻す。記事を1本ずつ直すというより、記事を作る仕組みのほうを育てていく感覚に近い。


これは以前ここで書いた「AIに任せて終わりにせず、人間の判断を回収する」という話と地続きだ。レビューで人が下した判断は、放っておけば消える。それをファイルに戻すと、次の初稿の質になって返ってくる。


自分たちのライティングスキルの中身

抽象論だけだと伝わらないので、自分たちが実際に使っている、マーケティングのライティングスキルの構成を見せる。実際のファイル名は伏せるが、中身はそのままだ。大きく4つに分かれている。


1つ目は、文体と構成の中核。ここが一番大きい。口語で書く、一人称は「自分」、文末は揃えずムラを出す、絵文字は禁止、AIっぽい定型句(「いかがでしたか」など)は禁止、私見を必ず入れる。加えて、結論を先に出す・機能ではなく読者にとっての意味を語るといった構成の原則、PREPやSDSといった型の使い分け、読者を離脱させない書き方、1行目の作り方、プラットフォームごとの書き分けまで入っている。


2つ目は、AI臭を消すための専用ファイル。禁止語と言い換え表になっている。たとえば「データが示している」のように、モノを主語にして人間の動詞をやらせない。「解像度が上がる」「本質的」のような、具体を装った抽象語を撒かない。全角ダッシュのような、出力の痕跡を消す。「AIっぽい」の中身を、ここまで具体的な項目に落としている。


3つ目は、何を書くか・どう検索されるかをまとめたファイル。読者の理解の段階に合わせてテーマと書き出しを変える、公開後にSEOを点検する、といった内容だ。4つ目はメルマガ専用の型。


大事なのは中身そのものより、これが全部ファイルになっていることだ。だから「この表現、AIっぽいよね」で終わらず、「この語は言い換え表の何番に当たる」と、誰でも同じ基準で指摘できる。そして良い指摘が出たら、その場でファイルに足す。基準が育つほど、レビューの往復は減っていく。


まとめ

AI導入でボトルネックは、作る作業から、質を見切るレビューに移る。ここを人の頑張りで埋めようとすると、一人が潰れる。


やることは、その人の頭の中にある「良し悪しの基準」を、ファイルに書き出すこと。一度に全部でなくていい。レビューで出た指摘を、一つずつ戻していけばいい。


次にAIの成果物を誰かがレビューして疲れていたら、直す前に一度考えてみてほしい。いま直しているその基準は、この人の頭の中だけにあるのか、それとも書き出されているのか。前者であるうちは、その人は休めない。自分たちはこの「基準の書き出し」を、顧問先のAI導入支援でも一緒にやっている。

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スノーリーズ株式会社​

代表取締役

石黒翔也

​執筆者プロフィール

約7年間にわたりモバイルアプリケーションやWebアプリケーションの開発、AzureやAWSを活用したサーバー構築に従事。

その後、2021年にスノーリーズ株式会社を設立し、AIで問い合わせ業務の効率化を実現する「AIbox」を開発。

AIboxは最新のRAG技術(Retrieval-Augmented Generation)を活用し、問い合わせ業務に課題を抱える企業に採用されています。

現在は、企業の技術顧問としても活動しながら、AIやクラウド技術の普及に取り組んでいます。

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